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ねこの尿崩症

獣医師が執筆しました
長尾 乙磨 先生

獣医師

尿崩症の病態と症状

バソプレシンは尿量のコントロールに関わるホルモンです。健康なねこの場合、視床下部にあるセンサーが体内の水分量不足を感知すると、脳の下垂体という部分からバソプレシンが分泌され、腎臓にあるバソプレシン受容体に結合して、水の再吸収を促します。この作用により尿は濃縮され体内の水分量は正常に保たれます。このバソプレシンの作用が不足することで、尿量のコントロールがうまくいかなくなり、水分量が多く薄い尿が大量に排泄されるようになる病気が尿崩症です。さらに脱水と口の渇きから、多量の水を飲むようになることが特徴です [1]。
尿崩症は下垂体からのバソプレシン分泌が不足する中枢性尿崩症と、腎臓でバソプレシンがうまく働かない腎性尿崩症に分かれます。それぞれどのような原因が考えられるのでしょうか?

原因

<中枢性尿崩症>

特発性

特発性とは原因がわからないことを指します。脳において特に構造的な異常を認めないものの、バソプレシンが正常に分泌されていない状態です。中枢性尿崩症の中では一番多い原因であると言われています [2]。

先天性

ねこでは、下垂体や下垂体を制御している視床下部の先天性(生まれつき)の異常によって、バソプレシンが正常に分泌されないために中枢性尿崩症を発症することが報告されています [1]。

物理的な障害

下垂体や、視床下部が物理的に障害された場合に、バソプレシンが正常に分泌されないことがあります。原因として交通事故や高所からの落下による頭部外傷や、頭蓋骨の中での腫瘍が考えられます [1,2]。

<腎性尿崩症>

続発性

続発性腎性尿崩症とは、さまざまな腎臓の障害に続発してバソプレシンへの腎臓の反応性が低下してしまう病態です。腎性尿崩症を引き起こす腎疾患の代表として慢性腎臓病や腎盂腎炎などが挙げられますが、その他にも高カルシウム血症、低カリウム血症や糖尿病などさまざまな疾患が報告されています [2]。

特発性

中枢性尿崩症と同じく、特発性が原因として挙げられます。腎臓には構造上の異常が認められないものの、バソプレシンが正常に作用しない状態です [2]。

 

診断のために行う検査

血液検査

血液検査では赤血球、白血球、血小板などの血球成分の評価や、血中に含まれる酵素やタンパク質の量の評価により、全身状態の評価を行います。
尿崩症の症例はおしっこが多いこと(多尿)や、お水を飲む量が増えたこと(多飲)で来院することが多いです。尿崩症以外の疾患で多飲多尿を引き起こす疾患がないかどうかを、血液検査で確認します [1,2]。

画像検査

尿崩症以外の疾患の除外を目的に、X線検査、エコー検査を行います。X線検査によって腹部臓器の大きさや概形、エコー検査によって臓器の断面や詳細な構造の評価を行えますが、画像検査により尿崩症を診断することはできません。

尿検査

尿検査では尿の中に含まれている成分(タンパク質やpHなど)の検査、尿に含まれる細胞の検査、尿の濃さ(比重)を測る検査を行います。尿検査は複数回行い、全ての検査で尿の比重が高くならないこと、つまり薄い尿が排泄されていることを確認することが重要です [1,2]。

水制限試験

ここまでの検査で尿崩症以外の疾患が除外された場合に水制限試験を行います。水の摂取制限を行うと、正常なねこの場合は体内の水分の排泄を防ぐために尿が濃縮されます。しかし尿崩症のねこの場合バソプレシンが働かないため尿は濃縮されずに、比重の低い尿が排出され続けます。この検査により、尿崩症であることが確定されます。水制限試験は、重度の脱水を引き起こす危険性があるので、自宅では絶対に行わず、獣医師の監督下で行いましょう [1]。

バソプレシン投与試験

中枢性尿崩症と腎性尿崩症の鑑別のために行われます。バソプレシン製剤を投与することにより、バソプレシンの分泌が不足しているだけの中枢性尿崩症では尿の濃縮が起こりますが、バソプレシンがうまく働かない腎性尿崩症では尿の濃縮は起きません [1]。

治療

水を切らさない

幸いなことに水が無制限に摂取できて、多尿が問題とならない環境下であれば治療は必須ではないと言えます。しかし、比較的短時間であっても水の摂取ができないと重度の脱水を起こし命に関わる可能性もあります。水の供給を切らさないことが一番重要です [2]。

合成バソプレシン製剤

バソプレシンの分泌がうまくいっていない中枢性尿崩症の場合、バソプレシンを投与することにより症状は大きく改善します。点鼻薬や点眼薬、経口などさまざまな剤型で処方されます [2]。

基礎疾患の治療

中枢性尿崩症であれば頭蓋内腫瘍や、外傷の治療を行い下垂体、視床下部の物理的障害を解除することにより、症状が収まる場合があります。

腎性尿崩症の多くは続発性であり、尿崩症を引き起こした疾患の治療を行うことにより、症状が改善することがあります [1,2]。

 

お家でのチェックポイント

飲水量、尿量をチェックしましょう

飲水量や尿量はお家でチェックすることが可能です。最近水を飲む量が増えたかな?おしっこに行く回数が増えたかな?と感じた時は飲水量、尿量を測ってみましょう。詳しくは飲水量・尿量の測り方の項目を参照してください。測ってみた結果、多飲多尿が疑われた場合は尿崩症だけでなく糖尿病や腎不全などの重大な病気が隠れている可能性がありますので、動物病院へ連れて行きましょう。

 

参考文献:
1. 獣医内科学 小動物編 日本内科学アカデミー編 文英堂出版
2. SMALL ANIMAL INTERNAL MEDICINE. 5th inter zoo

執筆者

長尾 乙磨 先生(獣医師)

山形県出身。東京大学を卒業後、同大学博士課程に在籍中。大学附属動物医療センターで診療活動を行っており、専門は消化器内科。学生時代からアメリカンフットボールをやっていることもあり、いぬねこの筋肉や脂肪、栄養学を専門として研究に奮闘中。