ねこの消化管腫瘍について

獣医師が執筆しました
長尾 乙磨 先生

獣医師

消化管に多い腫瘍とは

猫に発生する腫瘍の中で、最も発生が多い部位は消化管と言われています。1200匹近くのねこを集めた研究によると、消化管に発生する腫瘍ではリンパ腫が最も多く、その次に多いのが腺癌、肥満細胞腫であることが報告されています。リンパ腫はさらに大型のリンパ球が腫瘍性に増殖する大細胞性リンパ腫と、小型のリンパ球が腫瘍性に増殖する小細胞性リンパ腫に分かれます。詳しくはねこのリンパ腫をご覧ください。発生頻度の高い三つの腫瘍が90%を占めますが、そのほかに扁平上皮癌や繊維肉腫、平滑筋肉腫などが発生します [1]。

症状

腫瘍によって起こる症状は、腫瘍の発生する部位によって異なります。

・上部消化管に腫瘍がある場合

胃や十二指腸などの消化管の比較的始まりの方を上部消化管と呼びます。上部消化管に腫瘍が発生した場合は嘔吐や下痢、食欲不振、体重減少などの症状が発生します。上部消化管の腫瘍による下痢は、頻度はあまり増えない、もしくは少しだけ増えますが(1日に2~4回程度)、下痢の量が増えることが多いです。詳しくはねこの下痢の記事をご覧ください。また腫瘍からの出血により、イカ墨のような黒い下痢(メレナ)がみられることもあります [2,3]。

・下部消化管に腫瘍がある場合

上部消化管以降の消化管を下部消化管と呼びます。下部消化管に腫瘍が発生した場合は、下痢や血便、しぶり、嘔吐が症状としてみられます。下部消化管の腫瘍による下痢は頻度が増加し(1日に3~5回程度)、それに伴って下痢の量が減ることもあります。また、鮮血や粘液のついた下痢が認められることも特徴です [2,3]。

診断のために行う検査

・血液検査

腫瘍の診断のために特異的な血液検査項目はありませんが、肝臓・膵臓関連の数値や甲状腺ホルモンの測定を行なうことで、下痢や嘔吐などの消化器症状を引き起こす胃腸以外の疾患の除外を行います。

・便検査

腸内細菌のバランスが崩れていないかを確認したり、寄生虫の感染が起きていないかを調べる目的で行われます。下痢の原因となる、トリコモナスやジアルジアなどの寄生虫や虫卵は顕微鏡で発見することができます。ただし、うんちの一部のみを用いて検査を行うため、一度の検査で寄生虫が見つからなかった場合にも、寄生虫感染の可能性を完全に除外することはできません。

・エコー検査

腸や周囲の臓器の断面をエコー画像により確認することができます。腸の構造が崩れていたり、大きな腫瘤を作っていたりと診断のヒントになる所見を得られることがあります。腫瘤があった場合、エコーで位置を確認しながら細い針で刺すことにより腫瘤の一部を採材し検査を行うことができます。この検査により、腫瘍の種類がわかることもありますが、明らかな腫瘍細胞が得られず診断できない場合もあります。

・内視鏡検査・生検

ここまで行われた検査により、腸の組織の評価が必要な場合は内視鏡検査に進みます。内視鏡検査では、喉または肛門から細いカメラを入れて腸の内部を観察します。腫瘍組織の一部を採材し検査を行なうことで、腫瘍の種類を特定することができます。

・開腹生検

開腹生検は内視鏡検査では届かない部位や、腸の外側に腫瘤ができている場合に行われます。お腹を開けて腫瘍組織を回収してくるので確実に腫瘍組織を採材できる反面、ねこさんにも負担が多い検査になります。

治療

・抗がん剤

抗がん剤を用いた化学療法は、特にリンパ腫の治療として最も一般的な治療の一つです。抗がん剤を投与する場合は、定期的に病院で投与してもらい、定期的に検査を行う必要があります。抗がん剤には様々な種類がありますが、腫瘍の種類によって合う抗がん剤を選択します。

抗がん剤と聞くと副作用が強いイメージを持たれる方もいらっしゃるかと思いますが、なるべく副作用の出ないように使う量や期間を調整しながら投与を行います。それでも副作用が出る場合もあり、嘔吐や下痢、食欲不振などの症状が出てしまうこともあります [2,3] 。

・外科摘出

腫瘍の発生した場所や、腫瘍の種類によっては外科摘出により腫瘤を取り除くことができます。外科摘出のみによって完治が見込めることもありますが、追加で抗がん剤による化学療法を行う場合もあります [2,3]。

・対症療法

腫瘍に対する治療ではなく、腫瘍によって出てきた症状を軽減するための治療です。
免疫抑制剤であるステロイドや、症状にあわせて吐き気止めや食欲増進剤などの内服を行います。

腫瘍が身体のなかに隠れていても、サインとして出てくる症状は見落としそうなもののことが多くあります。少しでも気になる症状がある場合には、早めに動物病院に相談してみましょう。 

 

参考文献

1. Recent Trends in Feline Intestinal Neoplasia: an Epidemiologic Study of 1,129 Cases in the Veterinary Medical Database from 1964 to 2004. Kerry Rissetto, J Armando Villamil, Kim A Selting, Jeff Tyler, Carolyn J Henry. J Am Anim Hosp Assoc. 2011.
2. SMALL ANIMAL INTERNAL MEDICINE 5th edition interzoo
3. 獣医内科学 小動物編 日本内科学アカデミー編 文英堂出版

 

執筆者

長尾 乙磨 先生(獣医師)

山形県出身。東京大学を卒業後、同大学博士課程に在籍中。大学附属動物医療センターで診療活動を行っており、専門は消化器内科。学生時代からアメリカンフットボールをやっていることもあり、いぬねこの筋肉や脂肪、栄養学を専門として研究に奮闘中。