体重の増加

工藤 綾乃 先生のサムネイル
工藤 綾乃 先生 獣医師
目次

ねこの体重が増えてしまう原因としては、どのようなものがあるのでしょうか。ごはんの食べ過ぎや運動不足などの生活習慣による肥満が多いですが、健康的な生活をしているのに体重が増える場合もあります。後者の場合、なんらかの病気を抱えている可能性があります。

基本的に、正常な体重より過度に重い状態はねこの健康によくありません。体重が増える原因やそれによる健康への影響を理解し、体重増加を防ぎ、理想的な体重に戻してあげられるようにしましょう。

 

体重が増える原因

ねこの体重が増える原因は、大きく以下の3つに分けられます。

① 生活習慣、生活環境、遺伝的要因などが原因でおこる肥満

② ホルモンのバランスが崩れることなどによって起こる肥満

③ 肥満以外の原因

 

まず①の原因から、詳しく見ていきましょう。

◯ごはん・おやつの与えすぎ

ねこがごはんやおやつをねだるのが可愛くて、ついついあげすぎていませんか?ねこの体重、健康状態などに応じて、ごはんやおやつは適切な量を与えるようにしましょう。また、ねこによっては、常にごはんが食べられる状態にあると好きなだけ食べ過ぎてしまう子もいます [2]。このような場合は、減ったら足すという方法ではなく、一日に与えるごはんの量を設定した上で分けてあげるようにしましょう。

◯運動不足

太っているねこはあまり動きたがらず、それによってさらに体重が増えてしまうという悪循環に陥ってしまいます。肥満だけでなく、関節炎などの病気を持っているねこは、動くと痛いので動きたがらないこともあります。ちなみに、関節炎は肥満や高齢のねこでかかりやすい病気です。

◯年齢

人と同じように、年を重ねるとともに代謝や運動量が落ちるため太りやすくなります。若いころと同じ量、同じカロリーのごはんを与え続けていると、太ってしまう可能性があります [2, 3]。

上で述べた要因の他にも、オスのねこが太りやすいといった報告もありますが[2, 3]、基本的には食事量の調節や運動量を増やすことなどによって体重増加を防ぐことができる場合が多いです。

 

つぎに、②のホルモンのバランスが崩れることでおこる肥満の原因について見てみましょう。

◯不妊手術の影響

メスでは卵巣を、オスでは精巣を取り除くことを不妊手術といいます。この手術を行なったねこでは、食欲が増進したり運動量が落ちたり、代謝が下がったりすることによって体重が増えることがあります [1]。

◯副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症など

ねこでは稀な病気ですが、内分泌系の病気によって体重増加につながることがあります。

 

最後に、③の肥満以外の原因をみてみましょう。

◯妊娠

メスのねこで不妊手術をしておらず、他のねこと接触した可能性がある場合、妊娠によってお腹が膨らんでいる可能性があります。

◯腹水・胸水貯留

心臓の病気やウイルス性感染症(猫伝染性腹膜炎:FIP)、腫瘍などが原因で、お腹や胸に水がたまることがあります。溜まった液体の分、体重が増えてみえます。

◯子宮蓄膿症

子宮に細菌が感染し、子宮の中に膿がたまる病気を子宮蓄膿症といい、未避妊のねこでかかる可能性のある病気です。子宮に膿がたまることで、お腹がぽっこり見える場合もあります。

◯処方薬

ステロイドなど、薬の中には長期間服用すると体重増加につながるものもあります。

 

肥満による影響

ねこは太っていてこそ可愛い、と思うご家族もいるかもしれません。ただ、肥満はねこの健康にとって次のような病気を引き起こす可能性があります。

糖尿病

肥満になると、血糖値を下げるインスリンというホルモンが効きにくくなり、結果として糖尿病になる危険性が高くなります [2, 3]。

変形性関節症

体重が重くなると、それだけ体を支える関節に過度な負担がかかります。その結果、痛みを伴う変形性の関節炎になる可能性があります [2]。肥満の場合、特に前足、次に後ろ足の関節に症状がでる危険性が増えます。

下部尿路疾患

肥満による運動量低下なども相まって、結石が尿路に詰まってしまうような下部尿路疾患を引き起こす可能があります。

循環器疾患

肥満は、高血圧や血栓症などにも関連しており、心臓の病気を引き起こす要因にもなります。

これらの他にも、呼吸器疾患やがん、肝リピドーシスなどの疾患にも肥満が関係していることが報告されています [4]。このように、ねこの生活の質(Quality of Life: QOL)をあげるためにも、肥満の予防はとても大切です。

 

予防と治療

病気が原因で体重が増加する場合は、元気や食欲が急になくなるなど、他の症状も出てくる場合が多いので、日ごろからねこの体調の変化に気を付けてあげましょう。動物病院で原因を明らかにし、各原因に合わせた治療をうけることで、その他の症状と合わせて体重の増加も収まるでしょう。 肥満を防ぐために一番大切なことは、飼い主がねこの標準体型を知っておくことです。ねこの体型を評価するには、ボディコンディションスコア(BCS)を用いるのが一般的です。BCS 3が理想的な体型です。

 この体型を維持するためには、ごはんやおやつは適量を与えること、こまめに体重測定して体重の変化に気をつけること、そして一緒に遊んであげるなどして運動量を確保してあげることが大切です。

 

適正な摂取カロリー

参考として、ねこの体重別の適正摂取カロリーを示します。

(PET NUTRITION ALLIANCE (https://petnutritionalliance.org/cat.php?lg=en_US)

ライフステージや運動習慣などによって適正カロリー量は変わってきますので、日ごろからねこの体型、体重に注意してあげると良いでしょう。

 

参考文献
1. Feline nutrition: the association between spaying or neutering and weight gain. A. Wara and C. Datz. Adv. Small Anim. Med. Surg. 2013.
2. A cross-sectional study to compare changes in the prevalence and risk factors for feline obesity between 1993 and 2007 in New Zealand. N.J. Cave, et al. Prev. Vet. Med. 2012.
3. Prevalence, risk factors, and disease associations of overweight and obesity in cats that visited the Veterinary Medical Teaching Hospital at the University of California, Davis from January 2006 to December 2015. C.F. Chiang, et al. Top. Companion Anim. Med. 2021.
4. 肥満update 2018 – 2. 犬と猫の肥満と疾患-. 日笠喜朗. 第39回動物臨床学会 (2018) 小動物臨床栄養学シンポジウム1講演
この記事を監修した人
工藤 綾乃 先生のサムネイル
工藤 綾乃 先生 獣医師

札幌出身。地元の北海道大学を卒業後、関東の動物病院で勤務。腫瘍症例の治療に携わるなかで、より効果的な治療を見つけたいと考え、現在は麻布大学博士課程に在籍中。ねこと暮らしながら実験漬の日々を送っている。専門や興味のある分野は、がん、麻酔・集中治療、野生動物臨床など。

発行・編集:株式会社トレッタキャッツ

24時間365日、
ねこの小さな変化にも
すぐ気づける見守りトイレ。

泌尿器疾患にかかりやすいねこ。 カメラつきトイレとアプリを連動するだけで、 ねこにストレスをかけることなく、毎日の体重や尿のデータをグラフでチェック。 獣医師と共同開発したトレッタ独自のシステムで 変化を見逃さず、早期かつ適正な対応が可能に。 ねこの毎日をトイレから見守ります。

もっと詳しくみる