ねこの特発性膀胱炎

獣医師が監修しました
工藤 綾乃 先生

獣医師

特発性膀胱炎とは

ねこの膀胱や尿道などの下部尿路に関する病気を「猫下部尿路疾患」と呼びます。

そのうち、膀胱炎に関連する症状があるものの、原因が不明な膀胱炎を「特発性」膀胱炎と呼びます。

通常の膀胱炎では、検査をすることで結石や細菌など症状の原因となる異常が見つかることが多いですが、特発性膀胱炎の場合はそうした原因が見つからず、血尿や頻尿などの症状だけが認められます。

閉塞性尿路疾患以外のねこの下部尿路疾患の中で、特発性膀胱炎の占める割合は55~69%と高く、また10歳以下の成年期のねこでよく見られます [1]。

 

症状

特発性膀胱炎の症状は、他の下部尿路疾患(細菌感染による膀胱炎や尿路結石など)ととてもよく似ています [1,3]。

・トイレ以外で排尿する
・排尿回数が増える
・排尿姿勢をとるが出ない
・排尿時に痛がる(声を出す、など)
・血尿(尿が赤い)
・会陰部(尿の出る場所)のグルーミング(毛づくろい)が異常に多い

    検査

    現在のところ、「特発性膀胱炎」と診断するための検査はありません。そのため、次のような検査を行い、「何も原因が見つからない」場合に特発性膀胱炎であると診断します。

    ・尿検査
     尿の見た目や比重、結石のもととなる結晶や細菌感染の有無を調べます。

    ・エコー検査、レントゲン検査
     結石や腫瘍が無いか、膀胱に異常が無いかを調べます。

     

    また、症状が現れたころの飼育環境の変化の有無や他の疾病を含めたねこの詳しい状態など、ご家族からの情報も重要な診断材料となります。

     

    治療

    特発性膀胱炎は、特別な治療をしなくても一週間前後で症状が自然に治まることが多い病気ですが、再発を繰り返す恐れがあります。症状が深刻な場合には、炎症を抑える薬や血を止める薬などを与えることもありますが、食事や環境を整えてあげることが特発性膀胱炎の治療と再発の予防には重要です。

    ・食事の改善
    特発性膀胱炎のねこには、ドライフードより水分量の多いウェットフードが良いとされています。その他、獣医師に療法食について相談するのも良いでしょう [1,2]。

    ・環境改善
    ねこにとって快適な環境を整え、ストレスを減らしてあげることが、特発性膀胱炎の発症と再発を予防するのに重要です。トイレをきれいに保ち、落ち着いて排泄できる場所にトイレを置いてあげること、新鮮な水をいつでも飲めるようにしてあげること、ねこが安心して休める場所・隠れられる場所や高い位置にくつろげる場所を準備してあげることも大切です [3]。

     

    自宅でできること

    特発性膀胱炎になる原因はよくわかっていませんが、ストレス、少ない飲水量、肥満などが危険因子であるとの報告があります。これらの危険因子を取り除くため、【治療】で述べている食事改善や環境改善に加えて、ねこが適度に運動できるよう、キャットタワーを置いてあげたり、定期的におもちゃで一緒に遊んであげたりしましょう。

     

     

    参考文献:

    1. Recent Concepts in Feline Lower Urinary Tract Disease. D.J. Chew, et al. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2005.

    2. Diet and feline idiopathic cystitis. A.C. Beynen. Dier-en-Arts. 2016.

    3. Feline Idiopathic Cystitis: Pathogenesis, Histopathology and Comparative Potential E. Jones, et al. J Comp Path. 2021.

     

     

    監修者

    工藤 綾乃 先生 (獣医師)

    札幌出身。地元の北海道大学を卒業後、関東の動物病院で勤務。腫瘍症例の治療に携わるなかで、より効果的な治療を見つけたいと考え、現在は麻布大学博士課程に在籍中。ねこと暮らしながら実験漬の日々を送っている。専門や興味のある分野は、がん、麻酔・集中治療、野生動物臨床など。