ねこの乳腺腫瘍について

獣医師が執筆しました
中村 暢宏 先生

獣医師・獣医学博士

博士研究員(酪農学園大学・早稲田大学・国立感染症研究所)

ねこの乳腺腫瘍とは

ねこはお腹に4対、計8つの乳腺 (おっぱい)が存在しています。そして、人と同様にねこにおいても乳腺に腫瘍ができることがあります。腫瘍の形は様々ですが、丸いコリっとしたしこりとして触れることが多いです。ねこに発生する腫瘍の中で、乳腺腫瘍の割合は17%を占めるとされ、実に3番目に多い腫瘍であることが報告されています。また、腫瘍は良性と悪性の2パターンに大別されますが、ねこの乳腺腫瘍の約9割は悪性(乳腺がん)であるとされており、ねこの悪性腫瘍の中では最も発生数が多いとされています。

一方、犬の乳腺がんの割合はねこと異なり、約5割程度と言われています。腫瘍のほとんどは高齢での発生が多いですが、ねこの乳性腫瘍も12歳程度での発生が最も多いとされています。

 

大きさと予後の関連

腫瘍の大きさと予後(生存期間)には関係性があるとされています。腫瘍の直径が2 cm以下では平均して4.5年、2〜3 cmでは2年、3 cm以上の場合は約6ヵ月と、2 cm以上の腫瘍では極端に生存期間が短くなってしまうことが示されています [1]。そのため、なるべく小さな腫瘍の時点で早期発見し、治療を行うことが重要になってきます。

有効的な発症予防法

ねこの乳腺がんはホルモンバランスと関係があるため、避妊手術が乳がんの発生率を下げるとされています。6ヵ月齢以前の実施では91%、1歳まででは86%、2歳まででは11%発生率を下げると報告されていますが、2歳以降に避妊手術を行った場合に発症予防効果はないと言われています [2]。避妊手術を考えているのであれば、遅くとも1歳までの間に行ってあげたいですね。

 

診断のために行う検査

・身体検査

腫瘍の場所、大きさ、個数の他、リンパ節の腫れがないか評価します。リンパ節は、脇のところにある腋窩リンパ節と、股のところにある鼠径リンパ節の評価が大切です。

・X線検査

ねこの乳腺がんは特に転移しやすい腫瘍で、肺転移などがないか調べます。

・エコー検査

身体検査では見つけにくいリンパ節への転移の有無や、内臓への転移がないかを評価します。

・細胞診検査

乳腺がんは体表にできるため、他の体表にできる腫瘍(リンパ腫や肥満細胞腫など)との鑑別のためにできものの細胞を一部採取し、検査します。

 

治療

・手術

腫瘍を手術で取り除くことが最も重要な治療法です。また、ねこの乳腺はリンパ管で他の乳腺とも繋がっており、腫瘍細胞が他の乳腺へ移動しやすいことが知られています。そのため、腫瘍化した乳腺のみを摘出する手術では不十分であり、腫瘍化した側の乳腺全て、もしくは左右両方の乳腺全てを取り除く手術が再発防止に有効であるとされています。

・化学療法

腫瘍の大きさや転移の有無の評価でステージが進行していると診断された場合は、手術のみでは治療が不十分であることが多く、術後に抗がん剤を用いた治療を行うことが推奨されています。

 

ふだんのスキンシップで早期発見を

ねこの乳腺腫瘍は、なるべく小さいうちに発見できるかどうかがその後の生存期間を大きく左右します。そのため、おうちで普段のスキンシップの時などに注意して見て、触ることで早期発見することがカギとなります。乳腺腫瘍を見つけるポイントは、乳腺腫瘍の見つけ方をご参照ください。

参考文献:

1. MacEwen EG, Hayes AA, Harvey HJ, Patnaik AK, Mooney S, Passe S. Prognostic factors for feline mammary tumors. J Am Vet Med Assoc. 1984 Jul 15;185(2):201-4.

2. Overley B, Shofer FS, Goldschmidt MH, Sherer D, Sorenmo KU. Association between ovarihysterectomy and feline mammary carcinoma. J Vet Intern Med. 2005 Jul-Aug;19(4):560-3. doi: 10.1892/0891-6640(2005)19[560:aboafm]2.0.co;2.

3. 猫の治療ガイド2020, 辻本元、小山秀一、大草潔、中村篤史、2020年

執筆者

中村 暢宏 先生 (獣医師・獣医学博士)

北海道出身。北海道の酪農学園大学を卒業後、都内動物病院にて臨床獣医師として勤務。その後、抗生剤の効かない薬剤耐性菌に対する治療法の研究を行うため、酪農学園大学大学院博士課程に進学。2022年3月に博士号を取得後、酪農学園大学・早稲田大学・国立感染症研究所にてポスドクとして研究を行いながら臨床にも携わっている。専門・得意分野は感染症、消化器、免疫疾患など。無類の猫好き。