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膵炎とは

獣医師が執筆しました
長尾 乙磨 先生

獣医師

膵臓の役割と膵炎

膵臓は肝臓と胃、腸の間に存在する臓器で、プロテアーゼやリパーゼ、トリプシノーゲン、アミラーゼなどのさまざまな消化酵素を産生、分泌する役割を担っています。

ねこの膵炎は嘔吐や腹部の痛みなどの急激な症状を示すこともあれば、軽微な症状しか示さないこともありますが、適切な治療が行われなかった場合には死に至る可能性のある恐ろしい疾患です [1]。

 

膵炎の病態と症状

膵炎は一般的には急性膵炎と慢性膵炎の二つの病態があると言われています。ただし、この急性と慢性という分類は病理学的な膵臓での変化に基づいて行われるため、必ずしも臨床的な症状によって分かれるわけではありません。症状については急性膵炎と慢性膵炎の両者で重複する部分があります。

・急性膵炎

急性膵炎によって起こる症状は重症度により異なります。軽症例では軽度の腹痛や食欲不振、下痢のような、膵炎以外の疾患においても起こるような非特異的な症状がでることが多いです。

重症例においては急性の激しい嘔吐や、激しい腹痛、脱水、黄疸(粘膜の色が黄色くなる症状)が生じ、重症度によってはショック症状に陥る場合もあります。しかし致死的な膵炎においても体重減少や元気・食欲の低下など驚くほど軽微な症状しか示さないことも多く、症状と重症度が必ずしも一致するとは限りません。重症例においては亡くなってしまう可能性も高く、入院下での治療が必要になります [1, 2]。

・慢性膵炎

ねこの慢性膵炎の症状は非常に軽度で、食欲不振や、軽度の下痢や嘔吐などのその他の疾患でも起こりうるような症状がみられることが多いです。先に述べた急性膵炎と症状の違いがないために、膵臓の組織での評価を行わなければ慢性膵炎なのか、急性膵炎なのかわからないということも少なくありません。

急性膵炎を繰り返してしまい膵臓でのダメージが蓄積して慢性膵炎に移行する場合と、最初から慢性膵炎を発症する場合があることが知られていますが、両者の違いについては未だに分かっていないことが多いです [1, 2]。

 

原因

特発性

特発性とは、はっきりとした原因がわからないという意味です。人や犬の膵炎では脂肪分の多い食事や、特定の薬剤の投与によって膵炎が発症することが知られていますが、ねこの膵炎の95%は特発性であると言われています [2]。

一部の感染症

トキソプラズマなどの寄生虫や、猫コロナウイルス、ヘルペスウイルスなどのウイルスの重度の感染によって膵炎が引き起こされたことが過去の研究により報告されていますが、その発生は極めて稀だと言われています [2]。

 

診断のために行う検査

・血液検査

血液検査では赤血球、白血球、血小板などの血球成分の個数の評価や、血中に含まれる酵素やタンパク質の量の評価により、全身状態の評価を行います。これらの評価のみでは、膵炎の確定診断に至ることはできませんが、現在の症例の状態を確認し適切な治療法の選択に役立ちます。

また、血中に漏れ出ている膵臓の消化酵素の量を計測する特殊な検査(Spec fPL、SNAP fPLなど)を行うこともありますが、検査結果から膵炎を疑うことはできますが、診断を確定することはできません [1, 2]。

・エコー検査

エコー検査では膵臓の断面や構造の評価を行います。膵炎で一般的に見られる所見として、膵臓が腫大し元々の膵臓の色よりもエコー上で黒く見えることや、周囲に存在する脂肪組織が炎症の影響で白く見えることなどが挙げられます。また膵臓が隣接している十二指腸が炎症の影響で波打ったような形に見えることもあります。

しかし、膵臓は体積が小さく異常の検出が難しいことや、膵炎があった場合も構造の変化が出にくいこともあることからエコー検査で異常が見つからなかった場合も膵炎がないとは言いきれません [1]。

・組織診断

膵炎の確定診断のためには開腹手術によって膵臓の一部を採取し、病理検査によって組織の微細な構造を評価する必要があります。ただし、全身麻酔をかける必要があるため膵炎の確定診断のために外科手術を行って病理検査を行うことは極めて少なく、一般的には超音波検査、血液検査の結果を合わせて総合的に診断することが多いです  [1]。

 

注意が必要な併発疾患

・肝炎、腸炎

膵臓は肝臓と腸の間に存在するために、腸炎や肝炎などの膵臓周囲の臓器での炎症と関連していることが知られています。特に膵炎と肝炎(胆管肝炎)、腸炎が同時に発生している「三臓器炎」というものがねこにおいてはしばしば起こります。しかし肝炎や腸炎が膵炎の引き起こすのかどうかは未だ分かっていません。

また、膵炎の症状はその他の疾患でも起こりうる非特異的なものが多いため、これらの腸炎や肝炎での症状に隠れてしまって膵炎が見逃されてしまうこともあるので注意が必要です [1]。

・糖尿病

膵炎と糖尿病は人やねこで同時に発生することが多いことが知られています。その関連は完全には解明されていませんが、高血糖が持続することにより膵臓での炎症を引き起こすことが分かっており、糖尿病のねこさんは膵炎の発生に注意しなければいけません [2, 3]。

 

治療

現在の獣医療においては膵炎に特異的な治療法というものは存在せず、膵炎により引き起こされる症状への対症療法を行うことが一般的です。

・点滴による脱水の補正

非常に軽度な膵炎を除いては嘔吐による脱水、体内でのイオンバランスの乱れを補正するために点滴を行います。脱水を補正し、膵臓での血流を改善することにより、膵臓組織の損傷をより少なくすることができます [1, 2]。

・吐き気止め、消化管運動亢進薬

嘔吐や吐き気は膵炎のねこに一般的な症状の一つです。吐き気止めによって、水分の喪失を抑えるだけでなく、嘔吐による逆流性食道炎のリスクを減らすこともできます。また膵炎の影響で消化管の動きが悪くなって食べ物がうまく流れていかない場合には、消化管運動亢進薬により消化管の蠕動運動を補助する治療を行います[1][2]。

・栄養管理

膵炎で食欲がなさそうなねこさんに対しても、栄養補給を早期に開始する必要があります。食欲がなく自発的に食べてくれない場合は、流動食を口からシリンジで流し込む強制給餌や、鼻からカテーテルを入れる経鼻カテーテル、胃ろうチューブなどを入れて早期に栄養を補給することもあります [1, 2]。

参考文献:

1. SMALL ANIMAL INTERNAL MEDICINE 5th edition interzoo

2. ACVIM consensus statement on pancreatitis in cats. Marnin A. Forman, Joerg M. Steiner, P. Jane Armstrong, Melinda S. Camus, Lorrie Gaschen, Steve L. Hill, Caroline S. Mansfield, and Katja Steiger. JVIM. 2021

3. Hyperglycaemia but not hyperlipidaemia decreases serum amylase and increases neutrophils in the exocrine pancreas of cats. Eric Zini, Melania Osto, Simona Moretti, Marco Franchini, Peter H Kook, Hans Lutz, Franco Guscetti, Aurel Perren, Ludwig E Hoelzle, Mathias Ackermann, Thomas A Lutz, Claudia E Reusch. Res Vet Sci. 2010

執筆者

長尾 乙磨 先生(獣医師)

山形県出身。東京大学を卒業後、同大学博士課程に在籍中。大学附属動物医療センターで診療活動を行っており、専門は消化器内科。学生時代からアメリカンフットボールをやっていることもあり、いぬねこの筋肉や脂肪、栄養学を専門として研究に奮闘中。