ねこにとって快適な環境づくり〜後編〜

獣医師が執筆しました
山田 良子 先生

獣医師・獣医学博士

特任研究員(東京大学)

本記事では、ねこにとって快適な環境づくりのポイントをご紹介しています。前編では、「猫にとって快適な環境づくりのためのガイドライン(AAFP and ISFM Feline Environmental Needs Guidelines)」の概要をご紹介しました [1, 2]。まだお読みでない方は、ぜひはじめにねこにとって快適な環境づくり〜前編〜をお読みください。

後編では、このガイドラインで提唱されたねこの健康的な環境のための「5つの柱」のうち、前編でご紹介できなかった以下の3項目についてお伝えします。

 

3. 遊びおよび捕食行動のできる機会を設けること

自分で獲物を探し、見つけ、捕獲し、食べるという一連の行動は、ねこにとって自然な行動です。捕食行動を行う機会がないと、肥満や退屈、欲求不満に繋がり、過剰なグルーミングなどの問題行動が起きる場合があります。そのため、遊び方やフードの与え方を工夫し、ねこが捕食行動(を真似た行動)を行える機会を作ることが勧められます。 ご自宅で試せる方法として、以下のような例が挙げられます。

例)

・フードを小分けにして色々な場所に隠したり、おやつを投げて追いかけさせたりする

・ねこが遊びながら自分でフードを取り出すことができる知育おもちゃを使う

・先端に羽などがついた釣竿タイプのおもちゃ(猫じゃらし)を空中で上下にヒラヒラ動かしたり、真っ直ぐ動かした後サッと隠したりして獲物の動きを再現しながら遊ぶ

おもちゃについている紐や小さな部品を誤って飲み込んでしまわないよう、遊ぶ時は目を離さず、遊んだ後はおもちゃを片付けるようにしましょう。

 

4. 人-猫間の社会的関係は、好意的で一貫性があり予測可能であること

ねこと良い関係を築くためには、無理にねこと交流しようとせず、ねこのペースを尊重して交流することが勧められます。

それぞれのねこがどの程度人間との交流を望むかは、遺伝や幼少期の飼育状況、日々の経験など複数の要因により決まると考えられています。 ねこが下記のようなサインを出しながら近づいてきた場合、リラックスしていて人間との交流を望んでいると考えられます。

例)

・喉をゴロゴロ、クックーと鳴らす

・人間の手や身体に顔を擦りつけたり、頭をぶつけたりする

・人間の膝に乗ろうとする、傍にいようとする

「リラックスしながらお腹を見せてゴロンと横になる」という行動も人間との交流を望んでいるサインの一つですが、お腹を見せているからといってお腹を触ってほしいという意味ではありません。頭や顔の周囲を優しく撫でてあげると良いでしょう。

 

5. 猫の嗅覚の重要性を尊重した環境を用意すること

ねこは周囲の状況を把握するために嗅覚を利用し、空気中の匂いやフェロモンと呼ばれる化学的シグナルを感知しています。匂いやフェロモンによる情報収集を妨げないよう、ねこの嗅覚を意識した環境づくりをする必要があります。

例)

・香りの強い洗剤の使用や、外出時に使用したカバンなどの慣れない匂いのする物を部屋に置くことは控える

・ねこ用ベッドは複数用意し、洗濯は順番に行う(まとめて洗濯せず、必ず1つは部屋に残す)

・肢の先端にある臭腺から出る匂いをつけてマーキングできるよう、爪とぎができる場所を用意する。また、普段顔や身体をよく擦り付けている場所は掃除しすぎない

なお、病院などの預け先から帰宅したねこは馴染みのない匂いを身に纏っているため、同居猫が攻撃的になることがあります。すぐに同居猫と対面させず、しばらく隔離した部屋で過ごさせてから会わせると良いでしょう。

 

おわりに

本記事では、ねこにとって快適な環境づくりのためのポイントをご紹介しました。ねこ達が長く健やかに過ごせるよう、ぜひ「5つの柱」に着目した生活環境を整えてみてください。

 

参考文献:
1. AAFP and ISFM Feline Environmental Needs Guidelines, S L H Ellis et al. J Feline Med Surg. 2013.
2. 猫にとって快適な環境づくりのためのガイドライン, S L H Ellis et al. 藤井仁美 訳 Felis. 05 113-114. 2014.

執筆者

山田 良子 先生 (獣医師・獣医学博士)

獣医師, 博士(獣医学)。東京大学農学部獣医学専修及び同大学院農学生命科学研究科獣医学専攻博士課程卒業。動物と人間が共に暮らしやすい社会づくりに貢献することを目指し、東京大学附属動物医療センターにて行動診療に従事(特任研究員)。専門は動物行動学、臨床行動学。愛猫は11歳の白猫「ユキ」。