ねこの急性胃腸炎ってどんな病気?

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吉本 翔 先生 獣医師・獣医学博士・博士研究員(麻布大学・ペンシルバニア大学)
目次

急性胃腸炎とは?

胃や腸管など消化管の炎症が起きることを胃腸炎と呼び、症状が急に発症する病態を急性胃腸炎と呼びます。

症状としては突然の嘔吐や下痢が多く、重篤になると血便や脱水症状などが現れることがあります [1]。また、嘔吐の際に胃酸が食道を通ることで、食道が傷ついてしまうこともあります [2]。

 

急性胃腸炎の原因

ねこの急性胃腸炎の原因は様々です。代表的なものを確認していきましょう。

食中毒

ねこが食べてはいけない食物、植物、毒物などを食べてしまうと、その成分によって嘔吐や下痢を起こすことがあります。食べたものや摂取量によっては、中毒症状が出てしまう可能性があります。ねこが何かを誤って飲み込んだり、食べてはいけないものを口にしてしまった場合には、症状の有無にかかわらずすぐに獣医師に相談しましょう。

嘔吐や下痢を引き起こす可能性のある物の例として、ネギ類(玉ねぎ、にんにく、にらなど。煮汁も危険)、チョコレート、生の肉・卵・青魚、ユリ(花粉も危険)、アサガオ、人間の薬、洗剤、などが代表的です [4]。

また、傷んだ食べ物を食べると、その食べ物の中で繁殖した細菌の毒素などによって急性胃腸炎の症状が現れることがあります。ウェットフードは水分量が多く痛みやすいので、梅雨から夏にかけては特に注意しましょう。

ウイルスや細菌などの感染

ねこの消化管に影響をおよぼす代表的なウイルスとしてはパルボウイルス、猫コロナウイルスなどが、細菌にはカンピロバクター、クロストリジウム、サルモネラなどがあります。コクシジウムやジアルジアなどの寄生虫も急な下痢の原因となります。

ストレスや環境の変化

ねこは環境の変化に敏感ないきものです。引っ越しや、トイレの変更、知らない人の訪問などは、ストレスの原因となりやすい変化です。また、室温の大きな変化や直近にフードの変更がないかも気にしてみましょう。

薬の内服

 一部の抗生剤や消炎鎮痛剤、抗がん剤、駆虫剤などの薬の中には胃腸に炎症を起こしやすいものがあり、副作用として嘔吐や下痢が生じることがあります [1]。症状が起きた前に、新しく飲み始めた薬がないか確認しましょう。

 

急性胃腸炎を疑うときに行う検査

胃腸炎で現れる症状は、胃腸炎以外の様々な病気(腎臓や膵臓の病気など)でも共通して見られるため、症状だけでは原因を特定することが困難です。したがって、症状が出た頃に環境の変化や食事内容の変更が無かったか、症状が出る前に何をしていたか、嘔吐や下痢の頻度はどれくらいか、などの飼い主さんからの情報がとても大切です。

また、問診に加えて、以下の検査でより詳しく調べていきます。

 

便検査

便に寄生虫などがいないか、腸内細菌のバランスが崩れていないかなどを検査します。また、外部の検査機関に提出することで胃腸炎の原因になる細菌やウイルスが増えていないかも調べることもできます。

エコー検査

消化管の炎症の様子や、お腹のなかに他の病気が隠れていないかを確認します。

血液検査や尿検査

胃腸炎以外の病気の可能性についても調べることができます。

 

急性胃腸炎の治療

胃腸炎の原因は様々ですが、一般的に見られる症状は嘔吐、下痢、食欲不振です。症状が急性で、体調もある程度落ちついている場合には、下痢止めや制吐剤などの内服による対症治療を行ないます。脱水がある場合は、皮下点滴または静脈点滴を行って水分の補給を行ないます。

子ねこの場合は体が小さい分、嘔吐や下痢によって急激に脱水症状が進行しやすいので注意しましょう。

脱水以外の治療は、胃腸炎の原因に合わせておこないます。一般的に、食中毒で起こった急性胃腸炎は、適切に治療すれば数日で治ることが多いです。

寄生虫や細菌などの感染が原因の場合は、駆虫薬や抗生剤の投与を行ないます。

食事内容を消化に良いものに変更することや、胃粘膜保護薬や整腸剤を投与することが、消化管をより早く回復させるのに有効なこともあります [1]。

 

嘔吐によく似た症状

ちなみに、急性胃腸炎の症状の一つである「嘔吐」とよく似た症状に、「吐出」と「嚥下困難」があります。「吐出」は喉や食道に引っかかったものを吐き出すこと、「嚥下困難」は食べ物や飲み物をうまく呑み込めずに口からこぼすことで、これらは急性胃腸炎でみられる「嘔吐」とは異なります。詳しくは、嘔吐についての記事をご覧ください。

参考文献
1. Small Animal Critical Care Medicine (Second Edition) 2015, Pages 622-626
2. Esophagitis in Cats and Dogs. P.H. Kook, Veterinary Clinics of North America: Small Animal Practice. 2021.
3. Symptomatic Management of Primary Acute Gastroenteritis. Y. Lawrence & J. Lidbury. Today’s veterinary practice. 2015.
4.  The ASPCA. Animal Poison Control Center (APCC). https://www.aspca.org/pet-care/animal-poison-control. 参照日: 2021.12.28
この記事を監修した人
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吉本 翔 先生 獣医師・獣医学博士・博士研究員(麻布大学・ペンシルバニア大学)

北海道大学卒業、東京大学大学院にて博士号取得。夜間救急病院や大学病院で多くの患者と向き合う中で、研究やテクノロジーにより獣医療をもっと発展させたいと考えるようになる。現在は、麻布大学(2021年〜)と米国ペンシルバニア大学(2018年〜)で研究員。専門や興味のある分野は、がん、免疫、人工知能、診断推論など。

発行・編集:株式会社トレッタキャッツ

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