ねこの巨大結腸症

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工藤 綾乃 先生 獣医師
目次

巨大結腸症とは

結腸は、糞便を形作り、蠕動運動によって排便を促しています。この機能が慢性的に低下して、結腸がどんどん拡張してしまう病気が巨大結腸症です。長期間にわたる便秘によって、許容量を超える糞便が結腸にたまり続けてしまうことが直接の原因です。ただし、長い間便秘が続く場合には、以下のような原因が隠れていることが多いです [1]。

糞便の通過障害

骨盤骨折などに伴う骨盤腔の狭窄、炎症や腫瘍による大腸狭窄、大腸内異物による腸閉塞、会陰ヘルニア(会陰部の筋肉が弱くなり、腸が曲がってしまう病気)など

大腸の神経伝達異常による蠕動運動の低下

脊髄神経の傷害、自律神経障害、結腸平滑筋のアトニー(無力症)

糞便の異常

脱水や食事内容に伴う便の硬質化

その他、痛みやストレスにより排便を嫌がってしまうような原因

肛門腺破裂など肛門疾患による排便痛、関節炎、高齢ねこの筋力低下、外泊などの環境変化、トイレの衛生状態の悪化

 

原因を特定することで、より効果的な治療ができますが、原因を特定できないような特発性巨大結腸症も比較的多いため注意が必要です。

 

症状

結腸に過度に糞便が貯留することで、以下の2つの理由に伴う様々な症状が現れます。

①努力して排便しようとする(しぶり)

排便にかかる時間の延長、排便回数の増加、排便痛、血便・下痢

② 胃、小腸の内容物が流れない

食欲不振、嘔吐、活動性低下 

また、便の滞留時間が長くなることで、排泄された糞便から腐敗臭がすることもあります。排便時のしぶりは排尿姿勢にも似ているため、よく観察して排尿障害と混同しないようにしましょう。

 

診断のために行う検査

巨大結腸症と診断し、その原因を特定するためには、様々な検査を組み合わせて疑われる異常を一つ一つ除外していく必要があります。

身体検査

腹部を触診して、結腸内の糞塊の硬さや量を確認できます。また、直腸を内診して、直腸の異常や骨盤腔の状態を把握できます。ただし、こうした触診は肥満のねこや緊張の強いねこでは難しい場合もあるでしょう。その他、肛門周囲の外傷の有無、腰部や骨盤周囲の痛みの有無、後肢や肛門の神経反応に異常がないかなども診ていきます。

糞便検査

糞便の質を評価します。特に硬さは便秘の原因を考える上で重要になります。普段から糞便を観察しておくと、異常に気づきやすくなるかもしれません。

X線検査

腹部のX線検査によって、重度に拡張してたわんだ結腸を確認すれば巨大結腸症と診断できるでしょう。同時に、結腸内の糞便やガスの量を確認します。また、脊椎や骨盤の骨格に異常がないかを診ていくことも大切です。

血液検査

糞便の硬さに関わる脱水状態や体のミネラルバランスを確認するために必要です。重度の脱水やミネラルバランスの乱れがある場合には、その原因を考えるために腎臓などのその他の臓器の機能も血液検査によって確認します。

内視鏡検査

大腸内部の異常を疑う場合には、全身麻酔下での内視鏡検査が有効かもしれません。カメラによって、炎症や腫瘍による閉塞の有無、異物の有無を確認できます。腫瘍などの粘膜の異常があれば、組織の一部を切り取って、病理検査をすることもあります。

CT検査

大腸や骨盤周囲の形態的な異常を疑い、外科的な治療も選択肢に入る場合は、詳細な病状を把握するためにCT検査を検討します。全身麻酔が必要なため、ねこの状態に注意して計画を立てましょう。

 

治療

治療の初期には、結腸にたまった糞便をできるだけ取り除くことが必要です。その方法は主に摘便と浣腸があります

摘便(徒手排便)

腹部をマッサージしながら、便塊を肛門の方向へ押し出して排泄していきます。また、肛門に指を入れて糞便を掻き出すこともあります。ただし、便塊が指でほぐれないような強固な便秘の場合は、ねこの負担が大きいため、無理して行わないこともあるでしょう。また、肥満のねこや緊張の強いねこでは難しいかもしれません。

浣腸

浣腸液を肛門から注入することで、便を軟らかくして排泄させる処置です。摘便に比べて痛みが少なく、多量の宿便や強固な便秘にも対応できるかもしれませんが、脱水やミネラルバランスの乱れを悪化させる恐れがあるため、注意して実施する必要があるでしょう。

 

こうした処置と同時に、ねこの状態によっては、点滴や吐き気止めの薬を使用して、全身状態の改善に努めていきます。

治療の維持期には、巨大結腸症の原因に応じた治療を内科療法と外科療法に分けて継続します [2]。

 

内科療法

食事療法と定期的な便秘薬の投与により結腸内に糞便をためすぎないように管理していく必要があります。排便自体に嫌悪感を抱かないように、トイレを清潔に保ち環境を整えることも大切です。

・食事療法

様々な便秘対策の療法食が普及しています。療法食は不溶性繊維と可溶性繊維という2種類の食物繊維を適切な配分で増量した設計になっています。不溶性繊維は糞便を程よい硬さでかさ増しし、腸を刺激して蠕動運動を活発にします。可溶性繊維は水分を含んでゲル状になり糞便を柔らかくして腸を通過しやすくします。それぞれの食物繊維で役割が異なるため、原因に合った療法食を選択する必要があります。

獣医師と相談しながら、適した療法食の中でねこが好んでたべるものを選ぶと良いでしょう。選り好みや他の疾患を考慮して、食餌の変更が難しい場合は、可溶性繊維のサプリメントを内服することも選択肢の1つです。

・便秘薬

便秘薬には、薬の効き方によって様々な種類があります。例えば、潤滑剤として糞便をコーティングして排便しやすくするものや、糞便の水分を増やして軟らかくするもの、大腸の蠕動運動を活性化させるものなどがあります。便秘の重症度や便の質によって、適切な薬を選んで使用していく必要があるでしょう。

 

外科療法

骨盤骨格の異常や腫瘍などによる排便障害で、外科手術が適用であれば、ねこの状態を考慮しつつ検討していくと良いでしょう。

また、上記の内科療法でコントロールが難しい場合は、頻繁に摘便や浣腸を繰り返していく必要が生じますが、ねこの負担が大きく、著しく生活の質を低下させてしまうことがあります。その場合は、異常を抱えている結腸を外科的に切除摘出することも選択肢になります。ただし、負担の大きい手術のため、術後の合併症やリスクを正しく理解した上で決断しましょう。例えば、外科療法によって便秘を繰り返すことはなくなるかもしれませんが、逆に糞便を固めて貯留することができないため、下痢を繰り返してしまうことがあります。また、手術部位の細菌感染のリスクもあります。

 

排便は、生涯に渡って必要な活動です。ねこも家族もお互いに無理なく続けられるような治療を探っていけると良いですね。

 

便秘症を放置しない

一度、巨大結腸症になって、結腸の機能に異常が生じると根治は難しい病気です。したがって、巨大結腸症に進行してしまう前に便秘を改善することが重要です。日頃から糞便の硬さや排便の間隔をよく観察しましょう。そして、普段と比べて便が数日排泄できていないなど症状に気づいたら、早めに動物病院を受診しましょう。

 

参考文献
1. Megacolon in the cat. Bertoy RW. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2002 Jul.
2. Evaluation of outcomes following subtotal colectomy for the treatment of idiopathic megacolon in cats. Grossman RM. J Am Vet Med Assoc. 2021 Nov.
この記事を監修した人
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工藤 綾乃 先生 獣医師

札幌出身。地元の北海道大学を卒業後、関東の動物病院で勤務。腫瘍症例の治療に携わるなかで、より効果的な治療を見つけたいと考え、現在は麻布大学博士課程に在籍中。ねこと暮らしながら実験漬の日々を送っている。専門や興味のある分野は、がん、麻酔・集中治療、野生動物臨床など。

発行・編集:株式会社トレッタキャッツ

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