呼吸困難について

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工藤 綾乃 先生 獣医師
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呼吸困難とは

みなさんは普段の生活の中でねこの呼吸のしかたを気にしたことはありますか?イヌの場合、はしゃいで遊んで走り回って、ハアハアと口を開け、舌を出して息をする状態を見かけることも多いと思います。しかしながら、ねこで同様の呼吸を見たことある人はそう多くないと思います。

どうしてかというと、ねこはなにか病気があっても呼吸様式の変化がわかりにくいことが多い生きものだからです。むしろ開口呼吸をしなければいけないほど、見ててすぐにわかるほどの呼吸の変化がみられる場合は緊急事態と思ったほうがいいでしょう。ご家庭でねこの変化にいち早く気付けるために、普段の生活の中で呼吸について注意すべき点などをこれからご説明していきたいと思います。

症状

そもそも、ねこの正常な呼吸回数はどのくらいかご存じでしょうか?目安としては、安静時で1分あたり30回くらいです。10秒間の呼吸回数を数えて6倍、あるいは15秒間数えて4倍することで呼吸回数が求められるので普段の呼吸回数を確認しておくといいでしょう。

正常な呼吸回数を上回っているような呼吸困難のときには、呼吸促拍や呼吸様式の変化がみられます。

呼吸促拍とは、呼吸回数が異常に増加した状態などを指します。呼吸様式の変化としては、首や肩や腹筋など、呼吸の補助のために普段の呼吸では使わない筋肉を使うことから、息を吸う、吐くたびに胸やお腹など体が大きく動きます。さらに苦しくなると横になることもできず、前あしをやや広げた状態で首を前に伸ばして一生懸命息を吸うようになります。他にも咳やあえぎ呼吸といった症状がみられることもあります。このほかにも気道内に異物が入ったり、炎症や腫瘍で腫れて気道が細くなれば、ゼーゼー、ヒューヒューとったような呼吸時に音がすることもあります。

呼吸困難により酸素がからだにいきわたらない状況が続くと、低酸素状態に陥ることで、舌の色が悪くなるチアノーゼといった症状が認められることもあります。

原因

呼吸困難をみとめる原因は様々です。呼吸器の病気に限らず、心臓病や緊張やストレス、痛みなどからも呼吸の変化がみられることがあります。

呼吸器疾患

猫喘息、肺炎や気管支炎、気道内異物による気道の閉塞、鼻閉塞(鼻咽頭ポリープ、鼻炎など)

心臓病

心筋症、肺水腫、胸水貯留、血栓塞栓症

腫瘍性疾患

肺がん、鼻腔内の腫瘍、咽頭や喉頭の腫瘍

外傷、疼痛、ショック・アレルギーなど

 

診断のために行う検査

血液検査

血液検査だけで呼吸困難の原因を特定できることは少ないのですが、呼吸困難の原因は様々なため幅広い項目のチェックが必要になることもあります。

X線検査

鼻から気管、肺にかけて異物がないか、閉塞がないかを確認します。肺にしっかり空気がはいっているか、気胸がないか、心臓の大きさの評価も行います。

エコー検査

心臓病があるかどうかは病態の評価に非常に重要になります。心臓の筋肉の厚さ、血液の流れの評価が可能なのはエコー検査だけです。胸水の貯留のチェックや肺の評価にも有用です。

CT検査

先に述べた検査で原因がわからない場合に選択することのある検査です。全身麻酔をかける必要があるので、ある程度安定した状態でないと実施はできません。特に腫瘍の場合には、レントゲンに映らない小さな病変を見つけたり、鼻の中など、他の検査では評価できない部位について調べることができます。

いずれの検査でも、呼吸困難のあるねこは容体が急変することもあるので、検査をするときには酸素吸入をしながら様子に注意しながら素早く実施することとなります。

処置

呼吸困難時に実施する最初の治療は、容体を安定化させるための酸素吸入です。その後の治療は病気によってことなりますが、検査のための保定がストレスになってしまい状態がより悪化することもあるので、確定診断の前に試験的に治療を行わざるを得ないこともあります。

 

自宅での注意点

呼吸困難は数時間で悪化する場合があります。とくにあえぎ呼吸や、開口呼吸がみられる場合には緊急性が高いため、経過を観察するのではなく、すぐに病院を受診するようにしてください。

ねこの性格によってはキャリーへの捕獲や移動のストレスでも呼吸の悪化を認めることもあるので移動中も様子の変化をよく観察するようにしてください。病院に連れていくときには、基礎疾患の有無や内服薬の内容、呼吸の変化がいつから、どのように変化していったのかを獣医師に伝えられるよう準備をしておくことで、スムーズな治療や診断につながります。 

この記事を監修した人
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工藤 綾乃 先生 獣医師

札幌出身。地元の北海道大学を卒業後、関東の動物病院で勤務。腫瘍症例の治療に携わるなかで、より効果的な治療を見つけたいと考え、現在は麻布大学博士課程に在籍中。ねこと暮らしながら実験漬の日々を送っている。専門や興味のある分野は、がん、麻酔・集中治療、野生動物臨床など。

発行・編集:株式会社トレッタキャッツ

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