皮膚のしこりについて

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工藤 綾乃 先生 獣医師
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皮膚にしこりをみつけたら

ねこの体にしこりができているのを見つけたら、動物病院を受診する前に以下のことを確認しておくと良いでしょう。

 このような、おうちでの情報をもとに、獣医師がしこりについて検査をしていきます。

原因

しこりができる原因は炎症、腫瘍、過形成の3つが挙げられます。

・炎症

細菌や真菌による感染によって、皮膚が腫れて硬くなることがあります。また、炎症の過程で生じる浸出液や分泌液が溜まって皮膚が膨れてしまうことがあります。こうした炎症によるしこりは急にできて大きくなることがあり、炎症が治まってもその痕跡が残るかもしれません。炎症に伴って、赤みやしこりの周りが熱をもった様子が見られる場合もあります。

・腫瘍

腫瘍はさらに良性と悪性の2つに分けられます。

良性腫瘍

皮膚の一部に限定してできるしこりで、奥深くに浸潤したり、体の別の場所に転移したりすることがありません。次第に大きくなることはありますが、体への害は少ないしこりでしょう。例えば、基底細胞腫、乳頭腫(いぼ)、皮脂腺腫、脂肪腫、毛芽腫などが挙げられます [1]。

悪性腫瘍

良性腫瘍とは異なり、皮膚の奥深くへ浸潤し、血流やリンパの流れに乗って全身に転移する恐れがある悪性度の高い腫瘍です。そのままにしておくと、急速に大きくなり、細菌感染を伴って表面が腐って傷ついてしまう(自壊)こともあります。扁平上皮癌、肥満細胞腫、線維肉腫、悪性黒色腫、乳腺癌、リンパ腫などが例として挙げられます [1]。

・過形成

正常な組織が生理的に増殖し、大きくなることによってしこりができることがあります。例えば、妊娠に伴う乳房の発達や、免疫反応によるリンパ節の腫れなどが挙げられます。

特に、悪性腫瘍なのかそれ以外のしこりなのかによって、治療の方針が大きく変わりますし、ご家族の心配も増すと思います。しかし、一般的に見た目だけでは区別がつきません。小さくても悪性腫瘍の場合がありますし、大きくても悪性腫瘍ではない場合もあります。しこりを見つけたら、一人で不安を抱え込まず、動物病院で必要な検査をすることが大切です。 

 

診断のために行う検査

・身体検査

しこりを視て、触って状態を把握します。しこりの大きさや形だけでなく、皮膚の色や脱毛、外傷の有無を確認します。皮膚は表面から順に表皮、真皮、皮下組織、筋肉という層構造になっています。どの層にしこりが分布していて、しこりの境界がはっきりしているかどうかを触って確認します。また、しこりの硬さや、圧迫した際の浸出液・出血・痛みの有無も確認します。

こうした視診と触診は手術でしこりを切除摘出することになる場合、術式を決定するためにも大切な検査です。ただし、腫瘍を疑う場合、視診と触診だけでは診断するには不十分でしょう。

・細胞診検査

細胞診とは、細い注射針をしこりに刺して、中身の細胞や液を採取することで、しこりの原因を調べる検査です。ねこの負担も少なく、検査も短時間で可能です。細胞診によって、しこりが腫瘍なのかそれ以外なのかを推測することは、手術の必要性や術式を考える上でとても大切でしょう。

ただし、しこりが腫瘍だったとしても、腫瘍細胞がうまく採取ができなかったり、良性と悪性の判断が難しいこともあるため、診断の正確さには限界があることを理解しておきましょう。

・エコー検査

しこりの内部構造を把握することができます。しこり内部の液体の有無や血流の状態、しこりの分布が大まかに分かるでしょう。細胞診で、しこりに正確に注射針を刺す必要がある際は、エコー検査にてリアルタイムで確認しながら実施することもあるでしょう。

・CT検査

CT検査は、しこりの形状を精密に評価できます。大きなしこりに対しては、安全で確実な手術を行うために周囲の正常な組織との位置関係を把握できた方が良いでしょう。また悪性腫瘍を疑う場合は、転移・浸潤の有無を評価するためにCT検査が非常に有用です。全身に麻酔をかける必要がありますが、手術前に計画して実施することを想定しておくと良いでしょう。

・病理組織検査(生検)

病理組織検査では、しこりの一部あるいは丸ごとの組織を採取して、しこりの原因となる病気を検査することができます。全身麻酔が必要なため、気軽にできる検査ではありませんが、確定診断には必要な場合が多いです。

手術日より前にCT検査を実施する際は同時に組織検査も実施すると良いでしょう。また、手術によって切除摘出したしこりの組織検査を行なうことで、確定診断ができるとともに腫瘍ならば再発・転移のリスクを知っておけるでしょう。しこりの大きさや場所の問題で完全に切除摘出することが難しい場合にも、確定診断をすることが、ねこの今後のケアを考える上で重要かもしれません。

自宅での注意

しこりを予防することは難しいのですが、できた際には早めに気付いてあげることが大切です。そのためには積極的にスキンシップをして、変化に敏感になれると良いでしょう。そして、しこりを見つけたら、なるべく早く動物病院を受診しましょう。

中にはしこりが自然と無くなってしまうこともありますが、原因次第で放っておくのが良くない場合があります。悪い腫瘍でないかと受診前から不安に思い過ぎる必要はありませんが、疑う原因によって適切な検査をしておきましょう。原因が炎症ならば内科的な治療をしてあげることで良くなることが多いですが、腫瘍を疑う場合は手術が必要かもしれません。

参考文献
1. Retrospective study of more than 9000 feline cutaneous tumours in the UK: 2006-2013 Nicola T Ho J Feline Med Surg 2018 Feb;20
この記事を監修した人
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工藤 綾乃 先生 獣医師

札幌出身。地元の北海道大学を卒業後、関東の動物病院で勤務。腫瘍症例の治療に携わるなかで、より効果的な治療を見つけたいと考え、現在は麻布大学博士課程に在籍中。ねこと暮らしながら実験漬の日々を送っている。専門や興味のある分野は、がん、麻酔・集中治療、野生動物臨床など。

発行・編集:株式会社トレッタキャッツ

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