混合ワクチン接種について

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工藤 綾乃 先生 獣医師
目次

ワクチン接種の必要性

ワクチンを体に接種することで、ウイルスに対する免疫力を高め、感染を予防することができます。ワクチンは、全てのねこに接種するべきコアワクチンと、飼育環境などの感染リスクに応じて接種するノンコアワクチンの2種類に分けられます。

「ペットショップで購入してから、完全に室内で飼育している」からといって、「ワクチン接種は必要ない」と考えるのは良いことではありません。野良ねこの間で流行しているウイルス感染症は多く、私達が外出した際にウイルスを持ち帰ってしまい、自宅のねこが感染してしまう恐れもあります。予防できるウイルスにはワクチン接種をしっかりして、安心して一緒に生活しましょう。

コアワクチンで予防できるウイルス

コアワクチンで指定されているウイルスは猫ウイルス性鼻気管炎ウイルス(猫ヘルペスウイルス)、猫カリシウイルス猫汎白血球減少症ウイルス(猫パルボウイルス)の3種類です。いずれも免疫力の低い子ねこで感染すると、中には重篤化して死に至る場合もある恐ろしいウイルスです。これらのコアワクチンは3種混合ワクチンとして1度の注射で接種することが可能です。コアワクチンで予防できる病気にはどんなものがあるのか、簡単にみていきましょう。

猫ウイルス性鼻気管炎(猫ヘルペスウイルス)

主に鼻炎や結膜炎を引き起こします。感染ねこの唾液や鼻水、目やにから感染しますし、症状は目やにや結膜の充血・腫れ、鼻水、くしゃみなどが一般的です。一度感染すると症状が治っても、生涯ウイルスを保有し続けるため、再発しないよううまく付き合っていく必要があります。また、他のウイルスや細菌と同時に感染してしまうとより重篤化しやすくなります。

猫カリシウイルス

主に鼻炎や結膜炎、歯肉口内炎を引き起こします。感染ねこの唾液や鼻水、目やにから感染します。症状は、目やにや鼻水に加えて、よだれや口腔歯肉粘膜の傷・赤みなどが一般的です。歯肉口内炎による痛みが強いと食欲も悪化します。また、稀ではありますが、病原性の強い強毒株にかかると致死率が高いため注意が必要です。回復しても長期間ウイルスを保有し続けたり、ウイルスが変異して再発症したりすることもあるのでうまく付き合っていく必要があります。

猫汎白血球減少症ウイルス(猫パルボウイルス)

主に胃腸炎を引き起こします。感染ねこの体液や排泄物から感染します。感染力が非常に強く、様々な環境で長期間感染性を保持するため、感染ねこが接触したあらゆるものから感染するリスクがあります。症状は食欲不振や嘔吐、下痢が一般的で、中には血便をすることもあります。母親が妊娠中に感染すると子ねこが脳の異常をもって生まれることもあります。ウイルスが体内から排出されて回復すれば予後は良好ですが、それまで体力が持たずに亡くなってしまうこともある危険な病気です。

こうしたウイルス感染症の治療は、症状を抑えながら免疫力を高めて全身状態が悪化しないよう努めることがメインになります。直接ウイルスを撃退する特効薬はないため、未然に感染を防ぐことが非常に大切です。

 

 

ノンコアワクチンで予防できるウイルス

ノンコアワクチンで指定されているのは猫クラミジアと猫白血病ウイルス(FelV)猫免疫不全ウイルス(FIV)の3種類です。多頭飼育や屋外飼育の場合に感染リスクが高いため接種が推奨されています。5種混合ワクチンではコアワクチン3種に加えて猫クラミジアとFelVが一度の注射で予防できます。FIVは別にワクチン接種することが可能です。しかし、ウイルス接種に関する情報は日々変化しているため、獣医師に最新の情報を確認するようにしましょう。

猫クラミジア

主に子ねこで結膜炎を引き起こす細菌です。感染ねこの体液や排泄物から感染します。適切に抗生剤を使用して治療することで回復が見込めますが、子ねこにとって目の病気はさらなる体調悪化につながるため注意が必要です。

猫白血病ウイルス(FelV)

感染すると初期は発熱や元気低下、貧血を引き起こします。その後回復する場合もありますが、体内にウイルスが残り持続感染すると口内炎や白血病、リンパ腫などが発症する恐れがあります。感染ねこの体液や排泄物から感染し、母子感染することもあります。

猫免疫不全ウイルス(FIV)

感染すると初期は発熱や元気低下、下痢などを引き起こします。その後症状が落ち着く場合もありますが、体内にウイルスが残り、年月をかけて免疫力が低下していきます。そして、徐々に口内炎や感染症、腫瘍などが発症する恐れが高まります。主に感染ねこからの咬傷によって感染することが多いでしょう。

猫白血病ウイルスと猫免疫不全ウイルスは根本的な治療法がなく、症状を緩和する治療がメインとなります。屋内飼育を徹底して感染リスクを減らすことが重要です。

 

接種の頻度

子猫のとき

母親から譲り受けた免疫が、生後2か月齢ほどから低下していきます。この時期に合わせて最初のワクチン接種を実施すると良いでしょう。効果的に免疫を高めるためには、初回接種から1カ月程度たった後に追加接種を行ないます。

成猫になってから

前回のワクチン接種による抗体が十分な量ある期間は、理論上、次のワクチン接種は必要ないかもしれません。どのくらいの年月経過で抗体が減少するのかはウイルスによって様々ですし、体の中の抗体量を測らなければ分かりません。近年の研究をもとに世界的に、ウイルスの種類によっては3年ごとのワクチン接種で十分と提唱されていますが、日本ではワクチンの添付文書に従って1年ごとの継続接種が推奨されています[2]。今後、変更になる可能性もありますので、よく情報を集めておきたいですね。

特にねこが外出する場合やペットホテルをよく利用する場合は毎年接種していく方が良いでしょう。動物病院ごとに使用しているワクチンの製品が異なることもあり、ワクチンのプログラムが異なるため、接種の頻度に関しては獣医師と相談すると良いでしょう。

 

ワクチンの副作用

可能性は低いですが、ワクチン接種によるアレルギーを生じることがあります。顔の腫れ、元気低下、呼吸が荒くなる、ぐったりする、嘔吐、下痢など多岐にわたる症状を示すことがあります。接種した後の数時間は注意して様子を見守り、その日は安静を保ちましょう。接種した場所の腫れや痛みが数日続くこともあります。何か異変があれば早めに動物病院に相談すると良いでしょう。

また、稀ですが、ワクチン接種から数カ月から数年経って、接種した場所にしこりができてしまうことがあります。どんどん大きくなる際は悪性度の高い場合があります。万が一、腫瘍が生じても手術がしやすいように、ワクチンの注射する場所を選ぶ場合があります。

ワクチンの副作用の有無は接種してみて初めて分かります。もし、副作用を疑う場合は、次回の接種について獣医師とよく相談しておきましょう。危険なウイルス感染を予防するためにワクチン接種は大切ですから、接種前に副作用について正しい知識を持ったうえで、体調が万全なときを選んで実施するのが良いでしょう。 

参考文献
1. 2020 AAHA/AAFP Feline Vaccination Guidelines. /Amy Es Stone /J Feline Med Surg 2020.
2. WSAVA Guidelines for the vaccination of dogs and cats. /Day MJ. /J Small Anim Pract. 2016.
この記事を監修した人
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工藤 綾乃 先生 獣医師

札幌出身。地元の北海道大学を卒業後、関東の動物病院で勤務。腫瘍症例の治療に携わるなかで、より効果的な治療を見つけたいと考え、現在は麻布大学博士課程に在籍中。ねこと暮らしながら実験漬の日々を送っている。専門や興味のある分野は、がん、麻酔・集中治療、野生動物臨床など。

発行・編集:株式会社トレッタキャッツ

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